当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

Q0529
「櫻子」「國明」「壽雄」など、現在あまり使わない漢字を用いた名前の人は、これらの漢字がよく使われていた、戦前の生まれの人なのでしょうか?

A

 そう思われるかもしれませんが、残念ながらそう単純な問題ではないのです。「櫻」「國」「壽」はそれぞれ「桜」「国」「寿」の「旧字体」といわれるものです。意外と知られていないのが、子どもの名づけに用いることを許される字に、この旧字体が多く入っていることです。

 2015年5月1日現在、子どもの名づけに用いることを許される字(記号も含む)は以下の3168字(漢字は2998字)なのです。
 ・常用漢字:2136字
 ・人名用漢字:862字(2015年1月7日に戸籍法施行規則の改正で人名用漢字に「巫」が追加されて862字になった)
 ・ひらがな:83字
 ・カタカナ:83字
 ・記号(々、ゝ、ゞ、―):4箇
 そしてこれには、うえの「櫻」「國」「壽」など、230字の旧字体が含まれているのです。

 『新漢語林』(大修館書店)をご覧いただければおわかりのように、漢和辞典では、一般に常用漢字、人名用漢字のうち、旧来の字体(旧字体)を改めたと認められるもの(新字体)を見出しとして掲げ、そのとなりに旧字体がそえられています。しかし、新字体が子どもの名づけに使えるとしても、その旧字体のすべてが子どもの名づけに用いることを許されるわけではありません。たとえば、新字体「学」「励」は名づけに使えますが、その旧字体である「學」「勵」は名づけに使えません。それぞれ確認が必要となります。

 新旧字だけでなく、そもそも子どもの名づけに用いることを許される字については、昭和23(1948)年1月1日に施行された改正戸籍法と戸籍法施行規則により、いきなり当時の当用漢字表の1850字に限定されて以来、最近、2015年1月7日に法務省が同施行規則を改正して、人名用漢字に追加された「巫」まで、裁判で争われたり、国会で「人権問題」として議論されたことなどもあり、悲喜こもごもの歴史をもっている字が多くあるのです。旧字体についても、異体字を含めて、名づけに認められたり、あるときから認められなくなったりと、「出入りの歴史」があります。そのために、旧字体を含む名前だからといって「戦前の生まれの方だ」と速断はできないのです。具体的な例についてはこれからのQ&Aでお話しできるでしょう。 なお、「当用漢字」「旧字体」などの用語は、本サイトの「基本用語集」でも簡単に説明していますので、ご参照ください。(舩越國昭)

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