以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0222
「聖」という漢字の下側の部分は、「王」ですか、それとも「壬」ですか? 私は「壬」だと思っていたのですが……。
A
現在、パソコンでこの字を打ち出そうとすると、ほとんどの場合は、「王」の形になった漢字しか出てこないに違いありません。そういう意味では、「王」が「正しい」と言えます。しかし、「壬」だと思っていらっしゃった質問者の方にも、それなりの理由があると思われます。
それは、この漢字は当用漢字制定以前は、「壬」の形の方が正字体だとされていたからです。一般に、漢和辞典の字体は、中国で18世紀に作られた『康熙字典(こうきじてん)』を規範としています。そこで『康熙字典』で「聖」を調べてみると、図のようになっています。これが、当用漢字制定に当たって、現在見るような字体に変更されて、今日に至っているわけです。つまり、「王」になっているのは新字体、「壬」になっている方は旧字体、ということになります。
ただし、この『康熙字典』の字をよーく見ると気づくように、実はこの「壬」の部分、正確には「壬」ではありません。「壬」の場合は、一番下の横棒は、その上の横棒より少し短いのですが、この場合は逆なのです。
そこだけを同じく『康熙字典』から取り出すと、図のような字になります。これはこれでれっきとした漢字で、音読みはテイになります。一方の「壬」の音読みはジンですから、たかだか長い短いだけの違いなのですが、一応、全く別の漢字ということになります。
このテイの方を含む漢字として「廷」や「庭」があって、それらは音読みがテイであることから、同じグループの漢字であることがわかります。ちなみに「聖」の音読みセイも、このテイと同系列だとされています。
しかし、現在では、これらの漢字もすべて「壬」を使って表すことが多く、厳密な区別はなされていません。