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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0205
「なみだ」と読む漢字には「涙」「泪」「涕」などがありますが、これらに意味の違いはあるのですか?

A

「涙」と「泪」とは、多くの漢和辞典では異体字の関係にあるとされています。つまり、両者は同じことばを書き表すための文字で、発音も意味も同じなのです。ただし、文字の成り立ちとしては全く違います。
「涙」は、「さんずい」と「戻」から成り立つ形声文字です。現代日本語では少し発音が違ってしまっていますが、もともとは、「戻(レイ)」は、「涙(ルイ)」の発音を示すために用いられた記号でした。これに対して、「泪」の方は、「目」から流れる「水」を意味する会意文字です。
このせいでしょうか。「涙」と「泪」だと、具体的な「なみだ」のイメージを喚起する力は、「泪」の方が強いような気がします。安土桃山時代の茶人・千利休(せんのりきゅう)が、豊臣秀吉から切腹を命じられたとき、最期に臨んで弟子の古田織部(ふるたおりべ)に渡した茶杓(ちゃしゃく。茶さじの一種)が今に伝わっていますが、この茶杓の名前が「泪」です。これを「涙」と書くと、ちょっとイメージが違ってしまいそうな気がします。
さて、残るは「涕」ですが、これは音読みがテイで、「涙」とは違うことからわかるように、「涙」「泪」とは別のことばを表す漢字です。意味としてはやはり「なみだ」なのですが、私たちの日常の言語生活では、あまり用いられることがありません。
私がこの字を見て思い出すのは、中国の唐の詩人・杜甫(とほ)の晩年の名作、「岳陽楼に登る」の一句、「軒に憑(よ)りて涕泗(ていし)流る」です。ここで詩人は、わが身の衰えと世の中の乱れを思って涙しているのですが、「涕」は目から出る涙、「泗」は鼻を通って出てくる涙、つまり泣きながら流す鼻水のことだそうです。
「泣きながら流す鼻水」を表す漢字があるという事実は、漢字の世界は奥深いと、あらためて感じさせてくれないでしょうか。

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