以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0115
「傾」の左側は「化」と同じだと思っていたら、子どもが先生から、それだと間違いで、正しい漢字はパソコンでは出ない、と言われました。どういうことなのでしょうか?
A
それは妙な話ですね。「傾」は常用漢字ですから、図に示した『常用漢字表』の字体が基準になります。明朝体と手書きのデザイン上の違いはあるにせよ、この通りに書いたとして、間違いだと言われる理由はありません。また、パソコンのフォントもこれをモデル作られているはずで、パソコンでは出ない、というのも納得がいかないところです。
考えられるとすれば、先生のおっしゃっているのは、「ヒ」の左下の部分のことではないでしょうか。なぜなら、書道の世界を眺めてみますと、図のように、この部分を丸くではなく、鋭角的に曲げて書いているケースが多く見受けられるからです。
一般に、手書きで漢字を書く場合は、次の画へつなげるために、ある画をややデフォルメして書くことがあります。この「ヒ」の場合も、次の「頁」の最初へ筆を持って行くためには、かなり苦しい角度で筆を跳ね上げる必要があります。そのため、「ヒ」の最後を鋭角的に曲げて書いているのではないかと思われます。その方が、筆の運びがなめらかになって、美しく整った字が書きやすい、というわけです。「化」の場合には、そんな必要はないので、おのずと字の形が違ってくるのです。
でも、だからといって、そう書かなくては間違い、というわけではありません。先生のおっしゃっていることは、美しい字を書くための知恵、と理解するのがよいのではないでしょうか。