以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0512
駐車場などで、「月極」と書いてるのを見かけますが、「月決め」と書くのは間違いですか?
A
国語辞典で「つきぎめ」を調べてみると、たいていは、漢字では「月極」と書くことになっています。しかし、「つきぎめ」とは「月単位で決める」という意味ですから、「月決め」と書く方がすなおなようにも思います。それではどうして、「月極」という書き方がされているのでしょうか?
「極」という漢字を見てすぐに思い浮かべるのは、「きわめる」という意味でしょう。たしかに、この漢字が持っている本来の意味は、「きわめる」です。しかし日本人は古くから、この漢字を「きめる、とりきめる」といった意味で用いてきました。たとえば、夏目漱石の小説『それから』の終わり近くには、主人公の次のようなセリフがあります。
「仕様がない。覚悟を極めましょう」
これは明らかに、「きわめる」ではなく「きめる」でしょう。「つきぎめ」を「月極」と書くのは、この用法に基づいた書き方なのです。このような、漢字が中国語として持っている意味からは外れた、日本独自の用法のことを「国訓」と呼んでいます。
ただし、『常用漢字表』では、「極」に「きめる」という訓読みは載せていませんから、学校教育では、この読み方は習いません。にもかかわらず、「月極」と書いてある駐車場が、今でもあちこちにあるのが現実です。
私自身、子どものころ、「ゲッキョクってなに?」と親にたずねて、苦笑された思い出があります。学校で教えてくれなくても、私たちはさまざまな場面で、漢字を覚えていくものなのです。