以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0262
「就」の11画目は、真っ直ぐ下ろすのか、少し右にずらしてから下ろすのか、人によりさまざまですが、どちらが正しいのでしょうか?
A
これまた、マニアックなご質問です。文字で説明してあるだけだとわかりにくいですが、要するに、図の赤丸の部分の違いということですよね。これは、悩ましい問題です。
「就」という漢字は、「尢」という部首に所属しています。おそらく大半の人にとっては、見たことも聞いたこともない部首でしょうが、「まげあし」とか「おうにょう」とか呼ばれている部首です。この部首に所属する漢字には2つの系統があって、1つは部首文字である「尢」を含むもの、もう1つは、これに点を付けた「尤」を含むものです。「就」が後者に属することは、言うまでもありません。
「尢」と「尤」は、形はよく似ていますが、前者は音読みオウ、後者はユウで、別の漢字です。この2つを含む漢字が、同じ1つの部首に所属しているのは、単に形が似ているからという以上の何者でもないのです。
ところで、この2つの漢字を『康熙字典(こうきじてん)』で調べてみると、図のように、点がある「尤」は問題の部分を真っ直ぐ下ろしているのに対して、点のない「尢」は少し右にずらしてから下ろしていることが、はっきりとわかります。そこで、点がある方を含んでいる「就」の場合も、真っ直ぐ下ろすのがよいということになります。
ただし、この2つの区別は古くから混乱していたようで、『康熙字典』には、図のように点がないのに真っ直ぐ下ろす漢字も収録されています(厳密に見ると、この字も少し右にずらしてから下ろしていますが、これを「気持ちとしては真っ直ぐだ」と見ないと、『康熙字典』に同じ文字が2つ収録されていることになります)。そして、これは点がある「尤」の異体字だというから、話がややこしいのです。そんな混乱の結果、みなさんがいまご覧になっているこのHPでも、お使いのブラウザのフォントによって、この部分はいろいろになっていることと思われます。
このように、昔から混乱しているからこそ、マニアックと呼ぶにふさわしいわけですが、結論としては、基本的には真っ直ぐ下ろす、ただし少し右にずらしてから下ろしても間違いではない、ということになりそうです。