以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0506
「叩(たた)く」という漢字は、手に関係する意味なのに、どうして「手へん」ではないのですか?
A
「叩」は、漢和辞典では「口へん」に分類されていることが多いのですが、意味的に重要なのは、むしろ「卩」の方です。この漢字は、甲骨文字では図のような形をしていて、人がひざまずいている姿を表したものだとされています。
そこで、「叩」という漢字もひざまずくことに関係があって、本来は、ひざまずいて頭を地面につけることを意味していました。日本風に考えれば、土下座をしている格好をイメージすればいいでしょう。そうすると、額(ひたい)が地面にくっつきます。額のことを「ぬか」とも言うので、これを「ぬかずく」というのですが、「ぬかずく」ことは、ちょっと痛そうではあるのですが、額で地面を「たたく」ことにもなります。その結果、「叩」は「たたく」をも意味することになった、というのが一般的な説明です。
そうすると、「口」の方はどうなるのかというと、これはいわゆる形声文字の音符で、コウという発音を表しているに過ぎないようです。その証拠に、現在ではあまり使われませんが「扣」という漢字もあって、これも音読みはコウ、「たたく」という意味を持っています。
「たたく」という意味からすると、「叩」よりも「扣」の方がわかりやすそうなものですが、結果的に現在、定着しているのは「叩」の方。このあたりは、漢字のおもしろいところで、なんらかの事情で、「扣」よりも「叩」の方が好まれたのでしょう。人間様の勝手な好みで、漢字の運命は大きく左右されるのです。