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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0498
「電池」には、どうして「池」という漢字が使われているのですか?

A

「電池」とは、英語でいえばbatteryにあたる西洋語からの翻訳語で、1868年に中国で出版された『格物入門』という本で初めて使われたとされています。「格物」とは、だいたい現代の「物理」に相当する学問の名前です。
さて、この本の中で「電池」は、次のように説明されています。原文は漢文ですから、拙訳にてお目にかけることにいたしましょう。

問 電池とはどんなものですか?
答 木製の容器に硫酸を入れて、その中に銅と亜鉛の板を1枚ずつ入れます。その上部を銅線でつなぐと、電気が生じて銅線の上を流れます。容器は、ガラス製のものを用いるとさらにベターです。

049801そうして、この本には何やら素朴ながら楽しそうな右のような図まで添えられています。
こうしてみると、当時の「電池」というのは、私たちがよく知っている電池とは全く違ったものであることが、よくわかりますね。「電池」の本体は、劇薬として知られる硫酸という液体をいれる器だったわけで、文字通り、液体をためる「池」だったのです。
この液体の部分をなにかにしみこませて、持ち運びに便利にしたのが「乾電池」です。液体ではなくなったから「乾」なのでしょうが、この時点で、厳密には「池」を使うのはおかしいのです。でも、そこはご愛敬というところ。そのころにはもう、「電池」ということばが広く定着していたのでしょう。
なにはともあれ、「電池」という漢字熟語は、電池の発明当初の姿を今に伝えていると言っていいでしょう。漢字はときに、こんな役割を果たすこともあるのです。

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