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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0490
「甚」という漢字の左下は、手書きの場合、直角に書くのと、少し角を丸めて書くのと、どちらがいいのですか?

A

「甚」は常用漢字です。字形に迷った場合は、『常用漢字表』に従っておけばいいわけです。『常用漢字表』に載っているこの字の問題の部分は直角になっていますから、これで解決!ということになります。
とは言いながら、そんな権威主義的な態度は嫌いだとか、「寄らば大樹の陰」式の生き方でいいのかとか、いろいろとご批判もありましょう。そこで、もう少しだけ、突っ込んで考えてみることにしましょう。
049001「甚」は、成り立ちの上では、「甘」と「匹」に分解できるとされています。ちょっと強引に感じられるかもしれませんが、篆文(てんぶん。篆書)で見ると図のような形をしていますから、たしかに「甘+匹=甚」は成り立つのです。
「甘」と「匹」とでどうして「はなはだ」という意味になるのか、という点については、例によっていろいろな説があっておもしろいのですが、それはともかく、「甚=甘+匹」なのであれば、問題の部分も「匹」と同じように書けばいいはずです。そこで「匹」について調べてみると、『常用漢字表』では左下は直角ですが、いわゆる旧字体では丸めて書きます。とすれば、「甚」の左下だって本来は丸めて書くべきではないか、とも思われます。
049002でも、そもそも図のように「甘」と「匹」とをきちんと分けて書かないと、篆文には合わないわけです。だとすれば、「匹」の左下にだけこだわるのは、あまり意味がないかもしれません。かといって、現代日本においては、「甚」を図のように書いては誤字だとされてしまうことでしょう。
結局のところ、毎度同じことばかりで申し訳ないのですが、細かい字形にこだわりすぎるのはよくない、ということになりそうです。気楽にいきましょうよ、ね。

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