以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0473
「魚」の下の点4つの部分が「火」になっている漢字というのは、ありますか?
A
「魚」の下の部分が「大」になっている漢字については、Q0196でご紹介をしました。こんどはそれが「火」になっている漢字ですが、これも、実在します。
図は角川書店の『書道大字典』から、ちょっと拝借させていただきました。ともに唐王朝のころ(紀元7~9世紀ごろ)に作られた石碑に書かれている漢字です。今から千数百年も昔に、こんな漢字があったのです。
「魚」という漢字は、見ておわかりの通り、さかなの絵から出来上がった象形文字です。点4つの部分は、尾びれを表していると見て、問題ないでしょう。その尾びれが「火」になってしまうのは、いかにも妙な感じもしますが、別に驚くことではありません。
図は、「魚」の篆文(てんぶん。篆書)。これを見ると、問題の尾びれが、もともと「火」と似た形で書かれていたことがわかります。つまり、尾びれが「火」のような形になったのは、絵から文字へと漢字が発展していく過程で、偶然生じたことなのです。
ただし、漢和辞典でこの「火の魚」を探そうとしても、ほとんど見つからないことでしょう。篆文から楷書へと漢字の書体が変化していく中で、「火の魚」はだんだんと衰退して、ふつうの「魚」だけが残ったのです。そこで、「火の魚」はいわゆる異体字として扱われることになりますが、実際には、ほとんどの漢和辞典では収録していないのがふつうです。
「大の魚」の場合は、魚屋さんやお寿司屋さんで需要があるのですが、「火の魚」には、そういうお呼びもかからないようです。焼き魚はたしかにおいしいですが、尾びれに火がついてしまっては、焦げ臭くて食べられませんからね。