以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0422
「はじめての体験」という場合、「初めて」「始めて」のどちらを使うのがいいのですか?
A
「初」と「始」はどちらも「はじめ」という意味を持つ漢字ですが、現在では一般に、1つ、大きな違いがあるとされています。それは、「はじめる」という動詞は「初める」とは書かない、ということです。つまり、「仕事を初める」も「仕事を初めた」も間違いで、「始」を使うのが正しい、ということになります。
そこで、「仕事を始めて十分が経った」の場合でも、「初」を使うのは間違いということになるのですが、それが「初めて仕事をした」となると、これは「初」を使う方がもっぱら正しいというのですから、話はヤヤコシイのです。
その理屈は、「はじめて仕事をした」の「はじめて」は動詞ではなくて副詞だから、とされています。同様に「はじめての体験」の「はじめて」も副詞なので、「初」を使う方が正しいことになります。
つまり、動詞の場合には「始」を、副詞の場合には「初」をと使い分けましょう、というわけですが、われわれ一般人からすると動詞だの副詞だの、ムズカシイことを言われても頭がこんがらがるばかり。ここは、「○○しはじめる」は「始」、「はじめて○○する」「はじめての○○」は「初」と覚えておくしかありません。
ただ、動詞・副詞というこの使い分けは、多分に人為的なもので、実際にはこの規則に反した書き方をしている例もたくさんあります。たとえば、漱石や鴎外の作品の中から、「始めて○○する」と書いてある場面を探し出すのは、さほどむずかしいことではありません。
というわけで、理屈からいくと「始めて○○する」は間違いらしいのですが、こう書いてしまったからといって、それほど恥ずかしがる必要はありません。だって、漱石や鴎外という先輩がいるのです。「始めて○○する」と書いたのは、あなたが「初めて/始めて」というわけではないのですから。