以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0385
これまで、「北」の左下の部分は右上へと突き出るのだとばかり思っていたのですが、辞典で見るとどうも違うようです。突き出るのは間違いなのですか?
A
おっしゃっているのは、図の2つの違いではありませんか?左側の「北」では、縦棒が下まで長く降りていて横棒は突き出ていないのに対して、右側の「北」では、縦棒を遮るような形で、横棒が右上へとはね上がっています。
Q0029やQ0150などで少し触れたように、漢字の中には、活字と手書きとの間で、字の形が微妙に違うことがあります。「北」のこの部分はその代表的なもので、活字の場合、多くは左側のような形となり、手書きの場合はたいてい、右側のように書くのが習慣となっているのです。
この両者の違いは、活字のデザインと手書きの字形との違いですから、活字を使って印刷された辞書を見ると、ほとんど左側のようになっているはずです。でも、だからといって右側のように手で書いたら間違いか、というと、そうではないのです。
どうしてそんなややこしいことになっているのか?と尋ねられても、ちょっと返事に困ってしまいます。ただ、漢字の活字というのは19世紀になってやっと本格的に作られ始めたものですから、本来は手書きの形を基準に考えるのがスジが通っているはずです。とはいえ、活字は活字でずっとこの形でやってきたものですから、それが習慣となっているのです。
私は最近、寝る前に歯磨きをするようにしたいと思ってはいるのですが、ついつい忘れて寝てしまいます。習慣を変えるというのはなかなかむずかしいものです。ここは、漢字の世界の習慣にも目をつぶっていただいて、手書きと活字とでは字の形が違うことがある、ということだけ、心に留めて見守っていただければと思います。それはちょうど、アルファベットにもブロック体と筆記体とがあるようなものなのです。