以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0381
先日、あるお寿司屋さんに入ったら、「活ほたて貝」を「かつほたてがい」と発音している板さんがいたのですが、「いきほたてがい」じゃないんですか?
A
お寿司屋さんでほたて貝なんて、なかなかイキですねえ!
なんていうダジャレは置いておいて、早速本題に入りましょう。漢字には音読みと訓読みがありますが、一般に、あることばの一部分になっている漢字をどちらで読むかは、そのことばの他の部分に影響されます。つまり、音読みは音読みと結びつきやすく、訓読みは訓読みと結びつきやすいのです。音読みとは本来は中国語ですから、中国語と日本語を結びつけて読むのは、落ち着きが悪いからです。
「活ほたて貝」の場合、「ほたてがい」は訓読みのことば(漢字で書けば「帆立貝」)ですから、「活」も訓読みにしたいところです。「活」には「いきる」という訓読みがありますから、ここは「いきほたてがい」と読むのが順当なところでしょう。
ところが、ことばとは不思議なもので、理論通りにはなかなかいかないのです。「活ほたて貝」を「カツほたてがい」、「活蛸」を「カツだこ」、「活鮪」を「カツまぐろ」などと読む例は、最近は特に多いようなのです。
このように、あることばを「音読み+訓読み」で読む読み方を重箱読みといいます。重箱読みが起こる条件の1つとして、その漢字が訓読みされることが少なく、音読みされることが圧倒的に多いということが挙げられます。そのような漢字を目にしたとたん、人は音読みの方を思い浮かべますから、続く漢字が訓読みだろうとなんだろうと、とっさに音読みしてしまうのです。
そういう点から考えますと、「活」という漢字も、現在ではほとんど音読みでしか使われないといえます。『常用漢字表』では、この漢字に訓読みは認められていませんから、少なくとも学校では、訓読みの「いきる」は教わらないからです。
いい悪いは別として、『常用漢字表』の影響力は、こんなところにも及んでいると言えるのかもしれません。