以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0379
「球」や「環」などの部首の「王」は、漢和辞典では「玉」だという扱いになっていますが、どうしてですか?
A
この問題については、だいぶ前、Q0235で少し触れたことがあります。そこでご説明したのは、「理」の「王」は、「玉」が変形したものなのです、ということでした。
「球」や「環」などの漢字の意味を考えていただくと、これらの漢字が「玉」と関係する意味を持っていることがわかっていただけると思います。「理」だって、本来は宝玉の表面の模様のことです。部首とは本来、意味と字形によって漢字を分類する方法ですから、これらの漢字の部首が「王」ではなくて「玉」だというのも、理由のない話ではないのです。
実際、篆文(てんぶん。篆書)の時代には、「玉」という字には点がありませんでした。このことについて、『大漢和辞典』の「玉」のところにおもしろい話が載っています。『六書精蘊(りくしょせいうん)』という中国の本からの引用ですが、今風にまとめると、次のようになります。
「王」という漢字は、天・地・人を表す3本の横棒を1本の縦棒が貫く形から来ていて、真ん中の棒は上に寄せて書く。王は天命に従って政治を行うからである。それに対して、「玉」という漢字は、本来、三つの玉を一本の糸でつなげた形から来ているから、3つの横棒は等間隔に書く。ところが世間では、「王」の真ん中の棒を上に寄せて書くことを知らないから、「玉」には点を付けて区別したのだ。
天・地・人の総てを1つにまとめあげるのが「王」だ、ということなのでしょう。だからといって、真ん中の棒を上に寄せて書かなくてはいけないとも思えませんが、王様は天に近いところにいるから、といった理屈なのでしょうか。
間隔が違うだけで、「王」と「玉」を区別しなくてはならないとしたら、これはたいへんなことです。王様ならぬ私たちとしては、そんな時代に生まれなかったことを感謝すべきでしょう。
とはいえ、「玉」「環」「理」の部首は、と聞かれて「たま」と答えよ、というのも、なかなか無茶なお話。このあたり、漢和辞典にはまだまだ改良の余地がありそうです。