当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0337
子どもが見ていた「1ねんせいのかん字ひょう」の「子」のところに、「し(じ)」と書いてありました。「子」を「じ」と読むことがあるのですか?

A

ふつうに漢和辞典を調べてみても、「子」の読み方として載っているのは、音読みのシ・ス(「椅子」などの場合)と、訓読みの「こ」「ね」(十二支のネズミの場合)ぐらいのものでしょう。でもよく考えてみると、「子」を「じ」と読むことは確かにあります。しかも、小学校1年生が知っていてもおかしくないことばの中に!なんだかわかりますか?
それは、「王子」を「おうじ」と読むときです。いまどきの小学生でも白馬の王子様に心をときめかせるのかどうかは知りませんが、まあ、知らないはずはないことばと言っていいでしょう。
では、漢和辞典には出てこないこの読み方は、いったい何なのでしょうか。
「王」の音読みはオウ、「子」の音読みはシで、「王子」は素直に読めばオウシとなるはずです。しかし、漢字熟語の場合、ウで終わる漢字の次の漢字では、もともとは濁らなかった発音が濁音に変化することがあるのです。「王子」もこのケースで、直前のウのせいで、シがジに変化してしまったのです。
このような現象を、専門的には「連濁(れんだく)」と呼んでいます。どのような場合に連濁が起こるのかの説明は、むずかしくなりますのでやめておきますが、本来は清音なのに濁音になっている熟語は、身の回りを探せば意外とたくさん見つかることと思います。
漢和辞典では、連濁によって生じた音読みは、いちいち記さないのがふつうです。でもこれは、白馬の王子様に対して失礼なだけでなく、読者のみなさんに対しても不親切といえば不親切なお話です。このあたり、将来の漢和辞典では改善の余地がありそうですね。

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