以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0363
「穴」と「孔」とは、「穴」はへこんでいるだけ、「孔」は突き抜けているもの、という違いがあるという話を聞きましたが、ほんとうですか?
A
一般的に言って、たしかにそのような違いはあるようです。小社『明鏡国語辞典』の「あな」というところを調べると、突き抜けている「あな」の場合には「孔」が好まれる、というようなことが書いてあります。「ごみを穴に埋める」「穴があったら入りたい」に対して、「針の孔」「靴下の孔」というわけです。
しかし、それはあくまで慣用であって、必ずしも、漢字の本来の意味に基づくものだとは言えないようです。と言うのは、漢和辞典を調べると、「穴」の方にも「突き抜けているあな」の意味があるからです。
たとえば、中国の古典『孟子』に基づく、「穴隙(けつげき)を鑽(き)る」ということばがあります。家の壁や垣根に「穴」を作ってのぞき見をすること、転じて、男女関係が乱れることを意味する慣用句です。この「穴」が「へこんでいるだけ」だと、いくらのぞいたって見えるのは闇ばかり。男女関係の乱れようもありません。
こんな例からも、「穴」と「孔」の使い分けは、あくまで慣用的なものであることがわかるでしょう。
なお、現在の「常用漢字表」では、「孔」には「あな」という訓読みを認めていません。そこで、この表に従うとすれば、「あな」と読むのは「穴」だけということになります。実際、「靴下の孔」よりも「靴下の穴」の方がしっくりくる、という人がいるのは、そのせいです。