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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0347
「日本経済の光とカゲ」の場合、「カゲ」は、「影」と「陰」のどちらを使えばいいのですか?

A

国語辞典で「かげ」ということばを調べると、「影」と「陰」は別々の項目にして説明してあることが多いようです。この2つは別のことばなのだという認識なのでしょう。でも、ではその違いは?と思って国語辞典を読んでみても、すっきりとは理解できないことが多いのも、事実です。
漢字という側面からこの問題を考えると、注目すべきは部首であろうと思われます。「影」の部首は「彡(さんづくり)」、「陰」の部首は左半分の「こざとへん」です。
まず、「彡」はもともと、模様や色彩など、目に映る色や形という意味を持っている部首です。そのことは、「形」「彩」などの漢字のことを考えるとよくわかります。「影」も同様で、この字の意味を考える場合には、目に映る色や形という視点から考えなくてはならないのです。
一方の「こざとへん」は、昔は「阜」という形をしていたと説明されています。「阜」はもともと丘という意味で、これを部首として持つ漢字も、もともとは丘に関係がある意味を持っていたと思われます。とすると、「陰」は本来、丘によって太陽の光が遮られている場所を表していたのではないかと推測されます。
以上のように考えますと、「影」の方はどう見えているかに重点を置いた漢字で、「陰」の方はその場所そのものに重点を置いた漢字だと理解することができます。そこで「日本経済の光とカゲ」ですが、この場合は「光」が何を意味しているかによって、カゲの書き表し方も変わってくると思います。
「光」が日本経済の輝いている部分を指している場合は、カゲはそうでない部分を指すわけですから、場所を表す「陰」の方が適切でしょう。「光」が日本経済の輝きそのものを表している場合は、カゲは輝きのなさそのものを表すことになり、「影」の方がぴったりくるのではないでしょうか。
このように、漢字の微妙な使い分けについて、部首がなんらかの手がかりを与えてくれる場合もあるのです。

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