以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0338
最近よく耳にする「刺客」は、「しかく」と読むと思っていたのに、政治家の中には「しきゃく」と言っている人もいます。どちらが正しいのですか?
A
この問題、私も気になっていたのですが、やはり、気にしている人は多いんですね。
調べてみると、もともと「刺」という漢字には、音読みにするとシとセキになる、2系統の発音があります。古代中国語としては、どちらで発音するかによって意味も微妙に違うようですが、「刃物などで刺す」という意味は共通しています。ですから「刺客」の「刺」の場合、日本でも古くからシとセキの両方で読まれていたようです。ただし、近年ではセキという音読みはほとんど忘れ去られてしまっているのが現状です。
問題は「客」の方で、こちらはカクと読むのは漢音、キャクと読むのは呉音という関係です。つまりカクとキャクとは、その発音が伝わってきた時代や地域による違いで、意味の違いではないのです。こういう場合、大原則としては漢音を用いるのが基本です。とすると「刺客」もシカクと読むのが正しい、ということになりそうです。
ところが「客」の場合、この漢字1字でキャクと呉音で読んで、「お客さん」などと日常的に用いることが多いから、話がややこしくなるのです。つまり、「客」という漢字はキャクという発音で日本人の生活の中に溶け込んでいて、私たちは日々、「客」を見ればキャクと思え、ということを脳髄の奥深くに刷り込まれているのです。
こういった習慣の前には、理論は無力です。いくら漢音で読むのが基本と叫んでみたところで、私たちの頭は、「客」を見るとキャクと読みたくなるのです。その結果、「刺客」をシキャクと読む人が多くなってくるのも、不思議ではありません。
だとすると、シキャク派の政治家のみなさんは、理論よりも現実を重視しているのだと言うこともできるかもしれません。それが政治家として評価すべきなのかどうか、判断が分かれるところではありますが……。