以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0332
「適確」という熟語を見たとき、私は「的確」じゃないとおかしいと思ったのですが、こういう熟語もあるのですか?
A
ことばに気をつけて生活をしていると、実にさまざまな「おかしくない?」があるものです。でも、調べていくと、たいていの場合、それがもう何十年も前から問題とされていることがわかって、妙にがっかりしたりするものです。
さて、おたずねの「適確」もその1つ。1977年に刊行された文化庁『ことばに関する問答集』の中で、すでに取り上げられています。それによると、「適確」と「的確」のうち、古くからあって、より一般的なのは、「的確」です。そして、「適確」の方は、「適正確実」「適切確実」を意味する法律用語だ、というのです。同書はその根拠として、地方自治法の222条にそのような意味での「適確」の用例があるとしています。その条文は、次のとおりです。
普通地方公共団体の長は、条例その他議会の議決を要すべき案件があらたに予算を伴うこととなるものであるときは、必要な予算上の措置が適確に講ぜられる見込みが得られるまでの間は、これを議会に提出してはならない。
さらに同書によれば、この問題は、1961年に行われた国語審議会の総会で話題になったことがあるそうですから、ずいぶんと昔から、気にする人はいたのです。
とはいえ、「適確」と「的確」の問題について、同書は結論としては次のように述べています。
法令用語としての「適確」を無視するわけではないが、一般用語としては「的確」だけでよい(中略)特に「適確」の意味で用いる必要があれば、むしろ「適正確実」「適切確実」と書く方がよいのではないか。
なんだか、地方自治法にある熟語だからなんとか理屈だけつけてみた、という気がしないでもありませんが、それはともかく、現在の国語辞典や漢和辞典では、おおむね、この結論を踏まえて説明をしているようです。つまり、両者を認めた上で、「的確」の方を優先する、という態度です。
ちなみに、小学館の『日本国語大辞典』によりますと、「適確」は、1907年の『早稲田文学』の長編小説賞第1等を受賞した、中村星湖の「少年行」という作品に、用例があるそうです。地方自治法は1947年の施行ですから、それよりもずっと以前から、しかも法律用語としてではなく「適確」が存在したことだけは確かです。