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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0320
同じ漢字なのに、日本と中国とではまったく意味の違う漢字がありますが、どうしてですか?

A

「鮎(あゆ)の塩焼き」といえば、夏から秋にかけての風物詩の1つですが、それは日本人にとってのお話。これを中国人から見ると、「ナマズの塩焼き」と誤解されてしまいます。漢字の「鮎」は、日本ではアユを表しますが、中国ではナマズを表すからです。
このように、日本と中国とで意味がまったく異なる漢字というのは、意外と多いものです。たとえば「嵐」は、日本では「あらし」「暴風雨」という意味ですが、中国では「山のすがすがしい雰囲気」を表します。「嘘」と書けばこれは私たちにとっては紛れもなく「うそ」ですが、中国では「息を長く吐き出す」という意味なのです。
こういった現象がなぜ起こるのかについては、大きく分けて2つの原因が考えられます。1つは、日本人が誤解した場合です。昔の日本人は「嵐」という漢字を見て、「山」から吹き降りてくる強い「風」だから「あらし」、と考えたのでしょう。「虚」といえば「むなしい」という意味ですから、それに「口」がつけばそれは「うそ」に決まっている、というわけです。そうして、日本と中国とは海によって隔てられていて、緊密な交流は望めませんでしたから、そういった誤解を解くチャンスも少なかったのでしょう。
しかし、「鮎」の場合は、事情はちょっと違うかもしれません。その昔、神功皇后(じんぐうこうごう)がアユを使って戦いの勝敗を占ったという伝説から、「魚」と「占」を組み合わせて「鮎」という漢字が作られた、という説があります。そうだとすると、アユという意味の「鮎」という漢字は、日本人が独自に作り出した国字である、ということになるわけです。
ところが偶然、中国人は中国人で、ナマズという意味で「鮎」という漢字を使っていたのです。その結果、日本で生まれた「アユ=鮎」と、中国で生まれた「ナマズ=鮎」とは、本来は縁もゆかりもない字なのに、たまたま字形が同じになってしまった、というわけです。
つまり、日本と中国とで意味が大きく異なる漢字が存在する原因としては、日本人の誤解に基づく場合とは別に、偶然の一致というケースもあるわけです。他人の空似というのは小説の中だけのお話と思いきや、漢字の世界では、ありえない話ではないのです。

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