以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0190
「念頭においておく」などの「おいておく」は、漢字を使ってどのように書くのが正しいのでしょうか?
A
なかなかややこしい問題ですね。可能性としては「おいておく」「置いておく」「おいて置く」「置いて置く」の4つが考えられます。
国語学の世界では、「~しておく」とか「~していく」「~してみる」などの「おく」「いく」「みる」は、なにかを置くとか、どこかへ行くとか、なにかを見るといった具体的・実質的な意味が希薄なことばである、と言われています。そして一般には、これらのことばについては漢字では書かないという風潮があるようです。その風潮に従えば、「念頭に置いておく」と書くのがよろしい、ということになるでしょう。
どうしてそういう風潮があるのか、ということになりますと、きちんとした決まりごとがあるわけではないようです。1981(昭和56)年、文部省が公用文を作成する上での参考とするために省内に配布した「文部省用字用語例」という文書には、これらのことばはひらがなで書くのがよろしい、と書いてあります。しかし、これは文部省内の公文書に関することですから、参考にはなりますが、私たちのふだんの国語生活を拘束するものではありません。
おそらく、漢字で書くと具体的な意味をイメージさせやすいので、こういった具体的・実質的な意味が希薄なことばを書き記す場合には、漢字は避けられる傾向があるのでしょう。これも、漢字のイメージ喚起力のなせる技だと言うこともできます。