以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0309
動物のヤクを表す漢字はありますか?
A
ふむふむ、ヤクですか。どこかで聞いたことがある動物ですねえ。
と、思いつつ百科事典を調べてみますと、ヤクとはウシ科の動物で、体長は2.5メートルから3メートル、50~60センチの体毛が生えているとあります。名前の由来は英語のyakのようですが、チベットあたりに住んでいるそうですから、漢字があってもおかしくはありません。
そこで今度は我らが『大漢和辞典』に当たってみます。ヤクが英語由来だとすると、外来語であっても中国語由来でないものは基本的に訓読みに分類されますから、字訓索引の「やく」のところを探せばいいわけです。ところが、『大漢和』収録の5万字の中で、「やく」という訓読みを持つ漢字は、「焼く」「灼く」「妬く」を初めとして、なんと88文字もあるのです。
ここでくじけてはいけません!ヤクはウシ科の動物なのですから、その漢字は部首が「牛」である可能性が高いのです。この推理によって、88字をたった2文字にまで絞り込むことができます。その2文字とは、図のようなものです。
左の字は、音読みではボウとかリと読みます。右の字は同じく音読みではリョウです。発音は違いますが、これらは両方とも、ウシ科のヤクを表す漢字です。ただし、一般には左側の字の方がよく使われるようで、この字に「牛」を付けて、ボウギュウとかリギュウと読む2字の熟語にして、ヤクのことを表すこともあります。
小学館の『日本国語大辞典』によれば、「リギュウの尾を愛するが如し」ということわざがあるとのこと。仏教で、無意味な欲望から逃れられないことを意味することばで、法華経に出典があるそうです。
このことわざ、江戸時代の書物に出てくるようですが、当時の日本人はヤクを見たことがあったのでしょうか。見たこともない動物の尾だからこそ、無意味な欲望のたとえにふさわしいのかもしれません。