以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0295
「さんずい」と「にすい」は、どうして「さんずいへん」「にすいへん」とはあまり言わないのでしょうか?
A
たしかにそうですよね。「さんずい」はたとえば「海」の部首、「にすい」はたとえば「冷」の部首ですから、「へん」であることは間違いありません。でも、「さんずいへん」という言い方はときどき耳にするものの、やっぱりまれですし、「にすいへん」に至っては、まず聞いたことがありません。
その理由は、まったく謎です。しかし調べてみると、「さんずい」「にすい」という名称は、部首の呼び名の中でもかなり古くからあるものであることがわかりました。図は、12世紀の前半に書き写されたとされている『新撰字鏡(しんせんじきょう)』という字典の目次に相当する部分の抜粋です。ここに「三水部」「二水部」という文字が出て来ます。この目次では、たとえば「ぎょうにんべん」は「行人部」ではなく「彳部」と書かれていますから、「三水」「二水」はちょっと特別であると考えることができるでしょう。おそらく、筆で書く場合にはとくに混同しやすい両者ですから、「三水」「二水」という名称は、かなり早い段階で生じたのに違いありません。
そのことと、「さんずいへん」「にすいへん」とはあまり言わないということの間に、関係があるのかないのかは、わかりません。しかし、「○○へん」という言い方が字書にまとまって現れるのが15世紀ごろであることを考えると、「さんずい」「にすい」は、「○○へん」という呼び名が一般的になる前にすでに定着してしまって、あえて「へん」を付けて呼ぶ必要がなかったのかもしれません。
部首の呼び名というのは、動植物の学名のようなものとは違って、ニックネームのようなものです。いかめしい学者が命名したのではなくて、人々の間で自然と呼び慣わされてきたものなのです。
ですから、そのルーツはどうであれ、親しみを込めて「さんずい」「にすい」と呼んでおけばよいのではないでしょうか。