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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0289
「芸」という字をウンと読んでいるのを見かけたのですが、そんな読み方があるのですか?

A

「芸」という漢字は、ゲイと音読みするのがふつうですが、時にはウンと読まれることもあります。そこにはちょっと、ややこしい事情が隠されています。
当用漢字が制定されたとき、読み書きがしやすいようにという理由で、複雑な漢字の字体が簡略化されました。簡略化される前の字体を旧字体、簡略化された結果の字体を新字体ということは、ご存じの方も多いでしょう。
「芸」も簡略化された漢字のうちの1つで、旧字体では「藝」と書きます。画数がずいぶんと減って、ありがたいことはありがたいのですが、「藝」を「芸」に簡略化したことは、別の問題を引き起こすことになりました。それは、「藝」とは全く別の文字として、「芸」という字が存在していたということです。
もとからあった元祖「芸」は、音読みではウン、草を刈るという意味の漢字です。この字は、めったに使われることのない字ですが、ときどき、使われることがあります。中でも有名なのは、奈良時代の終わりごろ、石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)という人が作った、日本最初の図書館の名前、「芸亭」です。この図書館の名前はウンテイであって、ゲイテイではないのです。
このように、「藝」と元祖「芸」とは本来別の漢字です。しかし、当用漢字による字体の簡略化の結果、2つの別々の漢字が、たまたま同じ形をしているという状態になってしまったのです。
このややこしい状態を避けるために、旧字体の「藝」を積極的に用いることもあります。私たちがよく使うゲイという読み方の場合はこちらを使い、ウンのときには元祖「芸」を使うのです。これは、漢字の歴史から見ると、まっとうな態度ですが、現代日本においては「芸」をゲイと読むことがあまりにも定着してしまっているという難点があります。
これに対して、ウンと読む場合だけ、元祖「芸」の「くさかんむり」を4画で書く、という方法もあります。「くさかんむり」はもともと「十」を2つ並べたような形で4画で書かれていましたから、そこへ立ち戻ろうというわけです。しかし、この方法にも難点があります。それは、3画の「くさかんむり」と4画の「くさかんむり」とは、見分けがつきにくいということです。
結局のところ、「芸」には、ゲイと読む漢字とウンと読む漢字の2つが同居している、と考えておくが、一番よさそうに思われます。幸いなことに、元祖「芸」に出会うことはまれです。元祖も新入りも、仲良く一緒に暮らしていきたいところです。

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