以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0285
「此」や「其」は、どうして「これ」「それ」という代名詞の意味を表すのですか?
A
漢字の成り立ちには、いくつかの分類がありますが、中でもわかりやすいのは、象形と会意でしょう。象形とは、山の絵を元にして「山」という漢字が生まれた、というような、絵を元にして生まれたタイプで、会意とは、「木」が集まって「林」になる、というように、象形で生み出された漢字同士を意味の上から組み合わせることにによって、新しい漢字を生み出すタイプです。
しかし、こういった方法で漢字を作るのには、限界があります。なぜなら、象形という方法では、絵では表せないもの、抽象的なものは漢字にすることができないからです。「これ」「それ」といった代名詞は、その代表的なものといえます。
こういった抽象的なものを表す漢字を生み出す方法はいくつかありますが、手っ取り早いのは、すでに存在している漢字を流用する方法です。「これ」「それ」を表すことばと発音が似通った漢字を借りてきて、当て字として使用するのです。この方法のことを、仮借(かしゃ)といいます。
「此」「其」の字源については諸説ありますが、仮借の方法によって「これ」「それ」という意味を表すようになったのだというのが、一般的な説明のようです。「此」はもともと、歩くことに関係する意味を、「其」は農具の一種を表す意味を持っていたようですが、いずれも、「これ」「それ」の方が有名になってしまって、今ではもとの意味は忘れ去られてしまったのです。
漢字の成り立ちというと、象形のような絵文字を想像する方が多いようですが、このような成り立ちもあるのです。