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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0281
「棄」を少し古い漢和辞典で引くと、12画となっていました。13画ではないのですか?

A

「棄」を13画で書くとすると、「亠」(2画)「厶」(2画)「丗」(5画)「木」(4画)と書くのが普通でしょう。一方、12画と書くとすれば、「丗」の「L」の部分を1画で書く方法が考えられます。
現代の漢和辞典のもとになっている『康熙字典(こうきじてん)』では、この字は「木」へんの8画、つまり総画数で12画のところに収録されています。そこで、第二次世界大戦後まもなく、当用漢字が制定されたころは、「棄」の画数は『康熙字典』の収録位置どおり、12画で数えられていたようです。
しかし、よく考えてみると、「丗」の「L」の部分を続けて書くのは、ちょっと不自然です。なぜなら、「甘」は普通、「L」の部分を分けて総画数5画で数えますし、「廿」も同様に4画で書くからです。『康熙字典』だってこれらの漢字は、この画数のところに収録しているのです。そこで、13画派が台頭してくることになります。
「棄」が13画であると文部省(当時)が名言したのは、1957(昭和32)年に出版された文部省著作『国語問題問答第5集(国語シリーズ33)』に収録された、「当用漢字字画順表(案)」が最初ではないかと思われます。この表の中では、「棄」は13画のところに収録されています。
そんなこともあって、「棄」の画数は、現在では13画で数えるのが主流です。それはそれでいいのですが、問題は、『康熙字典』が12画としている事実を、どう扱うのかということです。
028101ここで登場してくるのは、『康熙字典』は字体を間違えているのだ、という立場です。『康熙字典』では、この字は図のような形となっています。このうち、「丗」と「木」の間には、右側に小さなくびれが認められますが、これを間違いだとして、「丗」の縦棒と「木」の縦棒をつなげて書くのがこの字の本来の形だ、とするのです。この立場に立つと、12画の字形を旧字体とし、13画のものを新字体とすることになります。
028102また「亠」と「厶」の部分を、図のように合計3画で書くのが、『康熙字典』が本当に表したかった字形だという考え方もあります。そんなむちゃな、とおっしゃるかもしれませんが、字源的には、これは根拠のある議論です。この場合も、図の形を旧字体として扱うことになります。
ややこしいですよね。辞書が間違えるというのは、作り手側からすると(大きな声では申し上げられませんが)天文学的に珍しいというわけではありません。『康熙字典』も、常に絶対であるわけではないのです。

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