以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0271
先日、職場で「忘年会のお報せ」というチラシが配られました。「お知らせ」が正しいと思っている私にはとても違和感があるのですが、こんな書き方もあるのですか?
A
あるんですよ。国語辞典で「しらせる」という項目を調べると、「知らせる」といっしょに「報せる」が載っていることがあります。また、ATOKやMS-IMEといったパソコンの日本語変換でも、「しらせる」と入力して何度か変換キーを押していると、やがて「報せる」にめぐり会うことができるでしょう。
でもたしかに、私たちはふつう、「知らせる」が正しいと思っていますよね。では、「報せる」は何者なのでしょうか?
漢字には、音読みと訓読みがあります。音読みとは、中国語の発音(といっても大昔の発音ですが)が日本語風になまったものです。一方の訓読みとは、ある漢字が本来、中国語として持っていた意味を、日本語に翻訳したものなのです。
そこで、「報せる」なのですが、「報道」「報告」といった熟語から考えて、「報」という漢字に「情報を伝達する」という意味があることは、すぐご理解いただけることと思います。「情報を伝達する」とはわかりやすく言えば「しらせる」ことです。つまり、「報」の訓読みとして「しらせる」が存在するのは、ちっとも不思議なことではないのです。
ところが、同じ「しらせる」ということばを表すのに、「知らせる」と「報せる」の2つの書き方があるのはややこしい、という考え方から、第2次大戦後の国語改革で当用漢字が定められた際、「知らせる」へ統一するように決められたのです。そこで現在では、「知らせる」の方が一般的になり、「報せる」に違和感を持つ人が多くなっているというわけです。