以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0270
外国の友人から、「店」と「屋」はどちらも英語では shop なのに、どこが違うのかと尋ねられました。なにか違いがあるのですか?
A
ふだん、私たちがあたりまえに使っていることばの中には、外国の方々から見ると不思議なものがあるようです。そんなことをあらためて質問されると、私たちとしてはとまどってしまうばかりです。
このご質問、正直に申しまして、私もとまどいました。「喫茶店」とは言っても「喫茶屋」とは言いませんから、「店」と「屋」になんらかの違いがあることは確かですが、「書店」と「本屋」の意味の違いを説明せよと言われてもキビシイことからわかるように、その違いは、意味というよりはもっと微細な部分にあるようです。
そこで、ここでは、あくまで漢字的に考えることで、お茶を濁しておきたいと思います。漢字的に見ると、「店」という漢字には本来、「ものを置いておく所」といった意味があるようです。そこから、「商品を置いて客に売る所」という意味が生まれました。この字を「みせ」と読むのは訓読みですが、日本語の「みせ」は、語源的には「見せる」と関係があるらしく、本来は「商品を並べてお客に見せて売る所」という意味だったようです。
一方の「屋」は、漢字としての本来の意味は、「家」「建物」です。そこから転じて、「パン屋」「牛乳屋」のように、商品の後に付けてその商品を扱うお店や職業を表すようになりました。
以上からすれば、「店」は商品を並べて売る所で、「屋」はもう少し広く使える、ということになりますが、現実にはそんなことはありません。ショーウィンドウがなくメニューだけで商売していても「喫茶店」は「店」です。かくいう小社「大修館書店」も、書籍を並べて売っているわけではありません。
というわけで、あえて両者の違いを考えるとすれば、「店」はちょっとよそ行きであるのに対し、「屋」の方が親しみのこもった表現だ、ということになるでしょうか。ただし、「茶店(ちゃみせ)」のような場合は「店」でもそういったニュアンスがありますから、ほとほと困ってしまいます。
「茶店」だけに、どうやらお茶を濁すわけにもいかないようで……。