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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0265
「人差し指」と「人指し指」は、どちらが正しいのですか?

A

現在出版されている国語辞典をいくつか調べてみると、「人差し指」だけを載せているものと、両方を載せているものとが見受けられます。従って、どちらかが間違いというわけではありませんが、「人差し指」の方が優勢である、というのが実情のようです。
「さす」と読む漢字は、「差す」「指す」の他にもいろいろあって、それぞれ、漢字の持っている本来の意味が違うので、厳密には使い分けがあります。その中で「指す」は、文字通り「指でさし示す」場合に用います。一方の「差す」は、さまざまな場面で万能的に用いられます。これは、「差」にはもともと「違い」という意味しかなく、「さす」と読むのは、日本語での慣用読みだからです。
そこで「ひとさしゆび」は、その本来の意味からすれば、「人指し指」と書くのが正しいと言えるでしょう。しかし、現実には「人差し指」の方が優勢です。その理由は、「人指し指」だと「指」が2回続いてヘンな感じがする、というのもあるでしょうが、別の理由もあると思われます。
話は、第二次世界大戦後、国語改革の一環として当用漢字が定められたときにさかのぼります。当用漢字とは、日本における漢字の使用を1850字の範囲内に限り、その読み方も制限しようという制度でした。「指」は1850字の中には入りましたが、訓よみとしては「ゆび」が認められただけで、「さす」は認められなかったのです。
その結果、「人指し指」と書くのは認められないことになり、「指」の代わりに、万能的に用いられる「差」が使われるようになったのでしょう。「指」を「さす」と読む読み方が再び認められるようになったのは、1973(昭和48)年のこと。しかし、それまでの25年ほどの間に、「人差し指」の方が定着したものと思われます。
「人差し指」という書き方にも、歴史の名残を見つけることができるのです。

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