以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0236
前から疑問に思っていたのですが、「虹」は空に出るものなのに、どうして「虫」へんが付くのですか?
A
当然のことではありますが、漢和辞典の仕事をしていると、校正だのなんだのといった目的で、漢和辞典を最初のページから順々に眺めていかなくてはならないことがあります。そんなとき、「虫」へんのところにさしかかると、私は気が重くなるのです。
なぜかって?「虻(あぶ)」「蚓(みみず)」「蚕(かいこ)」「蚋(ぶよ)」「蚤(のみ)」「蚊(か)」……。こんな感じで何百字も続くのですよ。虫地獄に落ち込んでしまったみたいで、たまったもんじゃありません。
そんな中で、オアシスを提供してくれるのは、「虹」と「蛍(ほたる)」くらいでしょうか。私としては、「虹」を「虫」へんにしてくださった漢字の神様に、感謝したいくらいです。
古代中国の人は、「虹」は竜の一種だと考えていました。大空をまたぐ壮大で美しい七色の竜――。なかなか美しいイメージじゃないですか!竜はもちろん想像上の動物ですが、蛇によく似た姿形をしています。そこで、「虹」は蛇の一種だともいえるわけで、この漢字に「虫」へんが付いているのは、「蛇」に「虫」へんが付いているのと同じことなのです。
さて、私にとっては地獄のような「虫」へんですが、虫好きの方からすれば、天国かもしれません。では、「やまいだれ」はどうですか?「疔(できもの)」だの「疣(いぼ)」だの「痂(かさぶた)」だの……。そんな漢字がいっぱいですよ。
でも、世の中は広いですから、こういう世界のフェチってのも、きっといらっしゃるんでしょうね。