以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0226
新製品を発売する(市場に出す)時に、「上市する」ということばを使うことがあるのですが、これはジョウシと読むのでしょうか、それともジョウチと読むのでしょうか?
A
たまにはズバッと結論から申し上げますと、これはジョウシだと思います。「市」の音読みはシ、訓読みは「いち」です。「上」をジョウと音読みしている以上、「市」も音読みする方がふつうですし、仮に訓読みしたとしても「ジョウいち」であって「ジョウち」ではありません。
ただし、「市」を「ち」と読む例は、ないでもありません。岩波書店『広辞苑』を調べると、「年魚市(あゆち)」「武市(たけち)」などが見あたります。しかしこれらはいずれも地名で、慣用的にこう読まれたものでしょう。
ところで、「上市」ということば、おそらく新語でしょう。私が働く出版の世界では、「上梓」と書いてジョウシと読むことばがあります。昔、印刷の原板を梓(あずさ)の木に彫っていたことから、出版することを「上梓」と言うのです。
「上市」は、これにならって生まれたことばなのか、それとも「市場に上げる」という表現が縮約して生まれたことばなのか。由来は私にはわかりませんが、グローバル化が進んでいる経済の分野で漢字熟語の新語が生まれているということは、漢字の造語力もまだまだ捨てたものではないのかもしれませんね。