以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0184
「帰」という漢字の部首は、「巾」にしている辞典と「りっとう」にしている辞典とがあるのですが、どちらが正しいのですか?
A
現代の日本で編集されている漢和辞典は、基本的にその部首を『康熙字典(こうきじてん)』に拠っています。しかし、『康熙字典』に出てこない漢字については、それぞれの辞典の編者がそれぞれの判断をして部首を決めるので、場合によっては食い違いが生ずることがあるのです。この「帰」という漢字も、その代表的な例であるといえます。
と申し上げますと、こんな簡単な漢字も載っていないなんて、『康熙字典』も使えない辞書だな、とお思いになる方もいらっしゃるやもしれません。しかし、それは早とちりというもの。「帰」という漢字はもともと「歸」と書くのが由緒正しい字体で、略字の「帰」が大手を振って使われるようになったのは、当用漢字の制定以降のことです。18世紀に作られた『康熙字典』の知ったことではありません。『康熙字典』からすれば、「帰」など、載せてやるほどの字体でもなかったのでしょう。
さて、このように当用漢字の制定によって『康熙字典』にない字体が正式に使われるようになったケースに対しては、部首は、もともとの正字体(旧字体)の部首に従うのが原則です。ここには、編者によって判断の分かれる余地はありません。そこで「帰」も「歸」と同じ部首に入れてやればいいのですが、そうは問屋が卸さないのです。というのは、「歸」の部首は「止」ですが、「帰」の字形のどこを探しても、「止」という形は見つからないからです。
というわけで迷子になってしまった「帰」をどの部首に所属させるかは、編者の判断に委ねられることになります。小社の漢和辞典では、伝統的に「巾」の部首に所属させていますが、その理由は、「帚」という漢字の部首が、『康熙字典』以来「巾」であることにあります。しかし、目立つということでいけば「リ」の方でしょうから、「りっとう」を部首とする方が、検索の上からすると便利だということもできるでしょう。