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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0168
最近、「護美」と書いて「ごみ」と読ませる例を見かけますが、この書き方には何か根拠があるのですか?

A

「ごみ」というと、私などはすぐに「ゴミ」という書き方を思い浮かべてしまうので、なんとなく外来語のような気さえしていました。しかし、調べてみるとなんと『平家物語』にも出てくることばだといいますから、れっきとした日本語です。辞書によれば、漢字で書く場合には「塵」や「芥」と書きますが、どちらも日常生活で目にすることはあまりないのではないでしょうか。
さて、この「ごみ」を「護美」と書くのは、インターネットで調べてみると、「塵」や「芥」よりもひょっとすると一般的なのではないか、と思われるくらいに例があります。この「護美」という書き方は、もともとは「護美箱」という形から来ているのではないかと思われます。
『朝日新聞』の1962(昭和37)年12月10日付夕刊の「今日の問題」という記事に、「護美箱」に関する記述があります。高度経済成長の最中、ゴミ問題がだんだんと意識されるようになってきたころ、九州のある市で、市が規格品のゴミ箱を配ったことがあったそうです。ところがそれに「護美箱」と書いてあったことから、そんな仰々しい名前を付けるのはおこがましい、と批判が続出した、というのです。
「護美箱」は、漢文風に訓読すると「美を護(まも)る箱」となり、「ゴミを入れることにより周りの美しさを守る箱」という、ちょっとしゃれた当て字でしょう。そのしゃれの出来不出来はともかくとして、「仰々しい」と感じる人がいたということは、この当時、「護美」という書き方は全く目新しいものだったのだと想像されます。
現在では、観光地や学校などで「護美箱」と書いたゴミ箱を見かけることがよくありますが、この書き方は、おそらく1960年ごろに生まれたものなのでしょう。それから40年以上が過ぎ、最初は「仰々しい」と言われたこの書き方も、一定程度の市民権を得て、「護美」だけが独立して使われるようになってきたわけです。漢字と日本語との関係には、こんな一面もあるのだなあ、と考えさせられますよね。

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