以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0138
中国で現在使われている「簡体字」に対して、「繁体字」ということばがありますが、これと「正字」とはどう違うのですか?
A
現在、主に中国大陸で使われている、漢字の簡略化された字体のことを「簡体字」といいます。これは、1964年に中華人民共和国で公布された『簡化字総表』で定められ、正式に用いられているものです。この表の名前からすると、正式には「簡化字」という名称が正しいようですが、日本では一般に「簡体字」ということばが通用しているようです。
さて、簡略化された、ということはもともと複雑なものがあったわけで、その元になった字体のことを、「繁体字」といいます。「繁」は、「繁雑」などの熟語からわかるように、ややこしい、という意味で、「簡」の対になる漢字です。つまり、「繁体字」はあくまで、「簡体字」と対になる概念なのです。一般的には、台湾や、返還前の香港など、『簡化字総表』の影響力の及ばない場所で用いられている字体のことを、「繁体字」と呼ぶことが多いようです。
一方、「正字」というのは、もちろん「正しい漢字」のことです。しかし、Q0073でも触れたように、「正字」という概念は時代や場所によって変化する可能性があります。そこで、「繁体字」と「正字」の関係も、時代や場所によって異なることになります。つまり、『簡化字総表』の影響が及ぶ範囲では、「簡体字」が「正しい漢字」ですから、「繁体字」は「正字」ではありえません。しかし、この表とは関係のない日本人から見ると、むしろ「繁体字」の方が「正字」のように見えるのです。
日本人から見た場合に限っても、問題は簡単ではありません。たとえば日本で「正しい漢字」として用いられている「鑑」という字は、「簡体字」では図のようになります。ところが、これに対応する「繁体字」は明らかに「鑒」ですから、日本人にとっての「正字」とは違うのです。
このような状況ですので、「繁体字」は「簡体字」の対の概念、「正字」はある時代や地域で「正しい」とされる漢字、というふうに全く別物として理解しておくのがよいと思います。