当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0111
「神馳」という熟語を見かけたのですが、何と読むのですか、また、どんな意味ですか?

A

このことばをどういうところで見かけたのかがはっきりしないと何とも言えないのですが、とにかく、調べのついた範囲でお答えすることとしましょう。
「神馳」、音読みしてシンチという熟語は、『大漢和辞典』にもちゃんと出ていて、「思う」という意味だと書いてあります。この場合、「神」は「神様」の意味ではなくて、「精神」などと同様に「こころ」という意味です。「馳」の方は、訓読みで「はせる」、走っていくという意味ですから、つまり「神馳」は「こころが走っていく」という意味で、遠くのものを思うという意味になります。
このことばの一番有名な用例は、日本史の教科書には必ず出てくる阿倍仲麻呂という人がいますが、彼が作った漢詩の一節、「首を翹(あ)げて東天を望み、奈良の辺りを神馳す」でしょう。遣唐使として中国に渡り、一生涯を異国の地で過ごした仲麻呂が、故郷・奈良の三笠山を思いながらうたった詩です。そういうイメージのあることばです。
一方、このことばを訓読みする、という可能性もあります。文字だけを眺めていると、日本の姓名や地名にいかにもありそうな気がしてきます。しかし、調べてみても成果はゼロ。ただし、インターネットで調べると、小説家・池永陽さんの「水の恋」という小説に、「神馳淵」(かんばせぶち)という池が出てくるそうです。場所は飛騨の山奥。実在する地名なのかどうかは、よくわかりません。

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