以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0107
「耳」へんに「ム」と書いて、どうして「職」の俗字になるのですか?
A
これも1つ前のQ0106と同様、めんどくさがり屋さんのしわざです。ただし、この字は、異体字を集めた伝統的な字典には出てきませんから、かなり近代の、しかもかなりのめんどくさがり屋さんのしわざではないかと推測されます。
一般に、めんどくさがり屋さんたちは、《万能略字パーツ》として「ム」を使うことが多いようです。Q0106で紹介した「口」の代わりに「ム」を使う以外にも、たとえば、「仏」の旧字体は「佛」、「払」の旧字体は「拂」で、「弗」の形を「ム」と省略しています。もっと大胆なのは「広」で、旧字体は「廣」。「黄」の旧字体という、12画もある複雑な字形をたった2画に略して、あっさりすっきり、溜飲を下げている姿が目に浮かんできそうです。ですから、「耳」へんに「ム」を書く字も、その延長線上で考えることができるでしょう。
ただし、めんどくさがり度ではかなり上をいく中国の簡体字を見てみると、「佛」「拂」はそのままの字形ですし、「廣」は「广」に、問題の「職」は図のようになっています。ひょっとすると、「ム」を好んで使うめんどくさがり屋さんは、日本にしか棲息していなかったのかもしれませんね。