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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0059
「代替」ということばは、最近は「だいがえ」とも読むようですが、この読みは正しいのでしょうか?

A

「ダイ替え」といえばすぐに思い出すのはパチンコ屋。あちらは「台替え」ですが、こちらは、「代替え」。私は聞いたことがないことばだったのですが、各種国語辞典を調べてみますと、ちゃんと載っています。
説明は「代替(だいたい)の重箱読み。」となっていて、「代替」を「だいがえ」と重箱読みにして、「だいたい」と同じ意味で使うのは、国語辞典的には了承されているようです。インターネットで検索してみると、「代替えバス」「代替え機種」「代替え案」なんて言い方がたくさん出てきますので、市民権も得ているようです。
ただし、これがいつごろから使われていたのかは、謎です。夏目漱石や森鴎外など、明治の文豪には用例はないようです。一方、いつもお世話になる小学館『日本国語大辞典』の初版(1974年)には載っていますから、最近とはいっても、少なくともここ30年は使われてきていると予想されます。
さて、これだけ認知されているとなると、漢和辞典的にも、この読みは正しいとせざるを得ないようです。ただし、「代替」という熟語は、「代」も「替」も「かわる・かえる」という同じ意味で、構造からすると同義の漢字を2字重ねた造りになっています。その一方だけを訓読みにする、というのは、いかにも不自然な感じがします。
その不自然さにもかかわらずこの読み方が普及していく、その原因は何でしょうか。推測するに、実は「替」という字と「タイ」という音読みの結びつきが、だんだんと薄くなっているのではないでしょうか。この字、日常生活においては「かえる」という訓読みで用いられることが多く、「タイ」という音読みで使われることはほとんどないのです。「代替」以外には、かろうじて「交替」があるくらいですが、「交代」というライバルがいますから、あまり力にはなりません。そこで、「両替」「振替」「住み替え」などに引きずられて、「代替」も「だいがえ」化していったのかもしれません。

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