当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0042
「袁」がつく漢字は、「猿」という字は下がはねていますが、「園」「遠」「環」などは、下がはねていません。どうしてなのでしょうか?

A

そうなんですよね、この字は古くから字体に不統一があって、漢和辞典編集者泣かせなのです。
漢字の字体は一般に、18世紀に中国で作られた『康熙字典』に拠っています。そこで、これらの字を『康熙字典』で調べてみると、図のようになっています。
004201「袁」と「猿」と「環」は下がはねていますが、他ははねていません。また、右斜め下へ伸びている部分も、払ってあったり止めてあったりしています。字体の混乱は、『康熙字典』から始まっているのです。
これがそのまま現代まで継承されていれば、「『康熙字典』のせいです」で済むのですが、そうはいかないのが難しいところ。ご質問にあるように、現在一般的に用いられている字体では、「袁」と「猿」だけがはねていて、「環」「園」「遠」ははねていないのが多いのです。つまり、『康熙字典』と比べると、「環」が「はねない派」へと宗旨替えをしているわけですが、これには、事情があります。
第2次世界大戦後の国語改革で、当用漢字が制定された際、字体に関しても検討が加えられ、多くの略字が採用されたほか、字体の統一も行われました。その際、「環」という字は、「園」「遠」と同じ字形に変更されたのです。では「猿」はどうかというと、この字は当用漢字に入らなかったため、その字体に関しては不問にされたのです。
「環」の宗旨替えの理由は以上ですが、現在発行されている漢和辞典を見ると、「猿」という字は常用漢字となっています。常用漢字とは当用漢字が改定されたものですから、「猿」が常用漢字に入る際、この字の字体も変更されてもよかったようにも思われます。しかし、常用漢字というものは、もともと、当用漢字にくらべて「字体についてうるさく言わない」という特徴があります。『常用漢字表』には、「(付)字体についての解説」という文書が付属していて、その中で、「このような細かい部分は気にしないでよろしい」ということが、実例を挙げて示されています。今回のご質問に関連したところでは、「環」という字が、次のように掲げられています。
004202ちなみに、「袁」という字は、現在でも常用漢字には入っていないため、字体としては『康熙字典』のままになっています。
以上、漢和辞典編集者泣かせの物語をお聞かせしましたが、ご納得いただけましたでしょうか?その表情からすると、ムリっぽいですよねえ……。

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