以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0019
「文」の4画め(左上から右下へ払う画)の最初に、何か飾りのようなものが付いていることがありますが、あれはなんですか?
A
「あれ」とは、図の赤い部分のことですね。これは、活字のデザインに基づく「飾り」のようなものです。もともとは明朝体独特のデザインなのですが、ゴシック体でも見かけることがあります。「文」の他にも、「史」「父」「便」などに現れます。これは「飾り」のようなものですから、もちろん画数には数えません。
これはもともとは、筆で書く場合の筆の勢いを、活字に移したもののだと言われています。昔の活字には多く見られますが、最近では、手書きとの違いが嫌われて、減少の方向にあるようです。
漢和辞典の中には、これのあるなしを、新字体と旧字体の違いとしているものも見られますが、画数に影響するわけでもありませんし、字源的になにか意味があるわけでもありませんから、やはり単なるデザイン上の違いと見ておくほうが妥当でしょう。
このように、明朝体活字には、手書きの字体とは違ったデザイン上の特色がいくつかあります。この「飾り」のようなものもその1つですし、たとえば同じ「文」で、図の青い部分のように、横棒の最後が三角形になっているのも、その1つです(これは、「ウロコ」と呼ばれています)。
ちなみに、「あれ」の名前ですが、『常用漢字表』の前書きでは、前述の「ウロコ」と一緒にして「筆押さえ」と呼ばれていますが、印刷・出版業界では、「ヒゲ」とか「ツメ」とか呼ばれています。
ある編集者がこの「ツメ」を嫌って、これが付いている漢字1つ1つ全部に「ツメトル」と赤字を入れて校正刷りを戻したところ、印刷所では校正記号の「トルツメ」(その文字を削除すること)だと勘違いして、赤字の入った漢字を全部削除してしまった、なんていう笑い話があります。