当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

Q0536
『大漢和辞典』索引巻の「字訓索引」を見ると、「あさをうんでつなぐ」「あめにぬれたかわ」などの読みが載っていました。このようなものも「訓読み」なのですか?

A

 『大漢和辞典』字訓索引の注意書きには、次のような一文があります。

 くだにまいたいと・くちをうごかす・くろいくちびるのうし の類も字訓として此の中に収録した。

 「くだにまいたいと(くだに巻いた糸)」などは「字訓」すなわち「訓読み」とは言いがたいかもしれないけれど、字訓索引を使う方の便を考えて、あえて「字訓として」収録したということでしょう。

 では何をもって「訓読み」というのか。このご質問はよくいただくのですが、はっきりとしたお答えができないのが実際のところです。なぜかというと、「訓読み」と「意味」との境目があいまいだからです。
 「訓読み」の基本的な定義については、「基本用語集」の「訓読み」項をご覧ください。ここにもあるように、訓読みとは漢字の意味を日本語で表したもので、古くは一つの漢字に対して多くの訓読みがありましたが、次第に現在の訓読みへと整理されてきました。多くの人が漢字を使用する中で、共通の理解のためには、共通の「読み」が必要だったのです。

 しかし、その訓読みの「整理」は、よく使われる漢字、その中でもよく使われる意味について行われてきました。現在の「常用漢字表」には「常用訓」と呼ばれる訓読みが示されていますが、「常用漢字」があるということは「常用でない漢字」もあり、「常用漢字」においても「常用でない訓」もあるのです。そういった、「あまり使われない漢字」や「あまり使われない意味」については、使わないから読みを整理する必要もないまま、現在に至っています。

 ここで、ご質問の「訓読み(?)」が付いている漢字を見てみましょう。
     Q536_photo2

 これらの漢字を、あなたは使ったことがあるでしょうか。恐らくないと思います。そもそも、なんでこんな意味を一文字の漢字で表現しようと思ったのか、不思議になってしまいますね。
 また、たとえば常用漢字の「稼」には、常用訓の「かせぐ」のほかに、「穀物を植える」「実った稲の穂」などの意味もあります。この意味で「稼」の字を使ったことがある人も、恐らく少ないでしょう。
 大漢和辞典の字訓索引では、「みのったいねのほ」から「稼」が引けるようになっていますから、「みのったいねのほ」を「訓読み」だと言えなくはないかもしれません。でも、電話口で漢字を伝える時、「実った稲の穂の『稼』です」と言っても全然伝わりませんよね。広く世の中に認知されているわけではないので、「訓読み」としての機能を果たすことができないのです。

 やはり、みんなが知っている読みでないと、「訓読み」と言い切るのは躊躇してしまいます。しかし、どこからどこまでを「みんなが知っている」と言えるのか、そこがはっきりしないので、どこまでが「訓読み」なのかという問いに対する答えも、結局ははっきりしないわけです。

  なお、この問題については、過去のQ0095「漢字の読みの中で、1番長いのはどんなものですか?」でも触れていますので、併せてご覧ください。(編集部)

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