以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0499
「児」の旧字体の「兒」は、赤ちゃんの「泉門(せんもん)」を表していると聞いたことがありますが、本当ですか?
A
赤ちゃんの頭を触ってみると、頭蓋骨に覆われていなくて、頭皮がぺこぺこしている部分があるのがわかります。これが「泉門」(「ひよめき」とも言います)です。これは、頭蓋骨がまだ完全にはできあがっていない、すきまの部分で、数か月のうちにだんだん閉じていきます。
さて、そのことを意識した上で「兒」という漢字を見ると、「臼」の上の部分が開いていること、真ん中の棒がつながっていないことが、いかにも泉門を表しているように見えてきます。実際、紀元1世紀に作られた字源学の古典『説文解字(せつもんかいじ)』では、この字を「赤子の泉門がまだ閉じていない形を表す」と解説しています。
しかし、これには反論もあります。というのは、泉門を表す漢字としては、別に図のような字が存在しているからです。この漢字は音読みではシンと読み、図の左は篆文(てんぶん。篆書)の形、右が明朝体です。この字は「脳」の旧字体「腦」にも使われていて、泉門を表す漢字としてはこちらの方がふさわしい、というわけです。
この説を採る人々は、「兒」は泉門ではなく、赤ちゃんの髪型を表していたのだ、と説明することが多いようです。古代の中国には、右と左に2本の角が生えたような形に子どもの髪を結う風習があって、「兒」はそれを表しているのだ、というのです。
どちらが正しいのかはともかくとして、泉門を表す漢字が存在することは確かです。なんだか、古代中国の人々の赤ちゃんに対するまなざしが感じられるようで、興味深いですよね。