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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0383
「会社」をひっくり返すと「社会」になりますが、この2つの熟語は、何か関係があるのですか?

A

おもしろい着眼点ですよね。漢字の順序を入れ換えてもことばとして成立する2字熟語というのは、意外と多いものですが、たいていは「議会」と「会議」のように、なんとなく似た意味を持っているものです。でも、「会社」と「社会」とは、かなり違うように思えます。
斎藤毅『明治のことば』(講談社学術文庫)によりますと、「会社」も「社会」も、本来は古代中国語の「社」に由来することばです。古代中国語の「社」とは、土地の守り神のことを表します。日本風に言えば「村の神様」のことで、この神様をまつるための村人の集まりを「会社」とか「社会」とか言ったようです。つまり、この2つの熟語は、本来は同じ意味だったのです。
幕末になって西洋文明が日本へと押し寄せてくると、西洋流の新しい概念を日本語に翻訳するために、さまざまな工夫がなされました。その中で、「会社」「社会」は、目的を共有する人々の集団のことを表すことばとして、使われるようになります。しかし、やがて「社会」の方が、人々の集団全体を表すsocietyの訳語として定着するようになると、「会社」の方は、営利を目的とした人々の集団companyの訳語として使われるようになっていきます。両者の分離は、1874(明治7)年から1877(明治10)年ごろのことだったといいます。
「会社」が「社会」と同じ意味で使われていたとは、ちょっとヘンな感じもしますが、「学術会社(いまで言う学界のこと)」「人間会社(人間社会のこと)」といったことばもあったそうです。たしかに、「会社」=「社会」という等式が成り立ちますね。
「会社」と「社会」が分離してほぼ130年。今では「社会のため」と「会社のため」とは、だいぶん違う意味で使われるようになりました。営利企業に勤める1人として、「会社」と「社会」の関係について、一度ゆっくり考え直してみる必要がありそうです。

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