以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0366
中国に「走頭無路」ということばがあるそうですが、どんな意味なのですか?
A
残念ながら、小社『大漢和辞典』にはこのことばは載っていません。ただ、代わりに「走投無路」なら出ています。「進退が谷(きわ)まって困難する」という意味だとあります。
かといって、「走頭無路」ということばがないわけではありません。中国の『漢語大詞典』にはきちんと出ていて、「走投無路」と同じだと書いてあります。「頭」の方には『水滸伝』からの用例が、「投」の方には『封神演義』からの用例が載っています。どちらも15~16世紀ごろ、明王朝の時代の作品ですから、中国でも近世の、話しことば的な世界で生まれた慣用句なのでしょう。
その他、いくつかの中国の辞典を調べてみたのですが、意味としては『大漢和』と同じく、一言でいえば「出口がない状況」を表すようです。この場合の「投」とは「投奔」、日本語でいえば「~に向かう」という意味だと書いてある辞書もありましたから、本来は「投」の方が正しく、「頭」は「投」と発音が同じであるために使われるようになったのだろうと想像されます。
「走頭」という文字面だけを眺めていると、私たち日本人には「先頭を走る」というような意味にも受け取れます。しかし、それでは「出口がない」とは正反対の意味になってしまいます。同じ漢字を使っているからといって、油断すると意味を取り違えてしまう、1つの例だと言えるでしょう。