当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0353
「政治」という熟語は、秦の始皇帝の名前が「政」なので、『「政」が「治」める』に由来しているのでしょうか?

A

なかなかおもしろい解釈ですよね。でも残念ながら、その説は当たっていないようです。
小社『大漢和辞典』で「政治」を調べると、『詩経(しきょう)』とか『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』とかいう古典に用例があることがわかります。これらの書物は、始皇帝が生まれる数百年前に書かれたものですから、「政治」という熟語が、始皇帝に由来することはありえません。
むしろ、ありうるとすれば、始皇帝の名前の方が「政治」に由来する、という可能性ではないでしょうか。
「政」という漢字は、1文字では「まつりごと」と読みますが、意味としては「政治」とほとんど違いがありません。中国古代の人々が、どんな思いを込めて子どもの名前を付けたのかは、私などには想像するよしもありませんが、漢字の意味と無関係に名前を付けるというのは、あまり考えられないことです。だとすれば、始皇帝は生まれたときから、政治で活躍することを期待されていたのかもしれません。
始皇帝のお父さんは、荘襄王(そうじょうおう)という王様だったことになっています。しかし、実は呂不韋(りょふい)という大臣が荘襄王の王妃に産ませた子どもだった、という「まことしやかな伝説」もあります。生まれたときから、そういう政界の波に洗われていた始皇帝の生涯を、「政」という名前は象徴しているのかもしれませんね。

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