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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0180
「聴」という漢字は、「十四の心で耳を傾ける」という意味だと聞きましたが、「十四の心」とは何なのでしょうか?

A

ありますねえ。こういうお話。校長先生のお話とか、人間関係に関するセミナーの講師の先生のお話などで、よく話題にされるようです。「十四の心で耳を傾けるつもりで、他人の話をよく聴くことが大切です……」
この「十四」とは、十四人分に相当するぐらいの広い心だとか、人の心がめまぐるしく変化することをたとえた数字だとか、いろいろと説明されているようです。しかし残念なことに、「聴」の字は、漢字の成り立ちからいって、「十四」とは基本的に関係がないようです。
この漢字の字源的な解説は、例によって諸説あるようですし、なかなかむずかしいようですから詳しくは説明しませんが、この字の「四」の部分は、字源的には「目」が横になった形だと考えるのが正しいようです。ですから、「聴」を「十四の心に耳を傾ける」という意味だとするのは、あまり根拠のある話ではないのです。
しかし、がっかりしないでください。「聴」の右側の部分は、「徳」の右側の部分でもあります。そしてこの部分は、実は「徳」の異体字であるともされているのです。だとすると、「聴」という漢字は、「徳をもって耳を傾ける」という意味だ、と理解することは可能です。徳のある人は、人の話をよく聴くことでしょう。したがって、「聴」という漢字を、人の話をよく聴きましょうというお話の中で話題にすることは、それはそれで、根拠がないわけではないのです。
018001ちなみに、この字の旧字体は「聽」という形で(拡大して図に示しておきます)、右半分は「十」と「四」と「一」と「心」から成り立っていて、この時点で、「十五の心」になってしまいます。「十五の心」といえば、石川啄木。『一握の砂』をポケットに青春時代の一時期を過ごした私としては、「空に吸はれし十五の心――」というような気分で、人の話に耳を傾けたいと思います。

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