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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0280
「罔」という字にも「あみ」という意味があるそうですが、どうして「糸へん」がついた「網」の字が主流になったのですか?

A

「罔」は、現代日本に生きる私たちにとっては、あんまりなじみのない漢字です。そこで漢和辞典で調べると、音読みはモウ、意味として「あみ」とか「ない(無い)」「くらい(暗い)」などが載っています。
028001なじみのない漢字ですから、その部首はと聞かれても、たいていの人が首をかしげてしまうでしょう。この漢字は、図で色分けしたように2つの部分から成り立っていて、赤色で示した部分が部首です。この部首のことを一般に、「あみがしら」と呼んでいます。
「あみがしら」は、単独の漢字としては「网」と書かれることもあって、音読みはモウ、「あみ」の象形文字です。そこで、これだけで「あみ」の意味があることになるのですが、単独ではなんとなく落ち着かなかったのでしょうか、かなり早い段階で、発音を表す「亡」を付け加えた「罔」という漢字が作られて、こちらが主流となったようです。
ところがおもしろいことに、やがて「罔」は、あとから付け加えられた「亡」の代わりに用いられるようにもなったのです。「ない」という意味で用いられるのは、このケースです。「亡」は現在でも「なくなる」という意味で使われますよね。
さて、「罔」が「あみ」という意味でも「ない」という意味でも用いられるようになると、どちらの意味かまぎらわしいことがでてきます。そこで、「あみ」の意味をはっきりさせるため、「あみ」は糸でできていますから「糸」へんを付けて、「網」という漢字が作られることになったのです。
このように、ある漢字が別の意味でも用いられるようになったため、もとの意味をはっきりさせるために、部首を付け加えた新しい漢字が生まれる現象を、「古今字(ここんじ)」といいます。「罔」と「網」の場合は、「罔」が「古字」、「網」が「今字」というわけです。また、「罔」は「網」の「原字(げんじ)」である、という言い方がされることもあります。
それにしても、「网」はちょっとかわいそうです。最初は単独で「あみ」だったのに、「亡」が付け加わって「罔」にされたと思ったら、こんどはさらに「糸」までくっついてくるのですから。それでも文句を言ったという話は聞きませんから、けなげなものですよねえ。

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