以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0249
「烏」の部首は「れっか(よつてん)」になっていますが、カラスと火とは、何か関係があるのですか?
A
いやあ、これはまったく、関係がないと思いますよ。
部首による漢字の分類を最初に用いたのは、紀元1世紀ごろに書かれた『説文解字(せつもんかいじ)』という字書です。この字書の部首の数はなんと540もあるのですが、その中で「烏」がどこに分類されているかというと、「れっか」でも「鳥(とり)」でもないのです。なんと「烏(からす)」という独立した部首があるのです。疑う人がいるかもしれませんから、証拠として現在の中国で発行されている『説文解字』の該当部分を、図として示しておきましょう。
『説文解字』の「烏(からす)」部に所属している漢字は、「烏」のほかに、図に見える2つの漢字が全てです。たった3文字の、それも明らかに寄せ集めとわかる小さな部首ですが、「烏」はれっきとしたその家主だったのです。
現在の部首分類の元になっているのは、18世紀に作られた『康熙字典(こうきじてん)』で、その部首の数は214です。540と比べるとずいぶんと減ったものですが、部首というものは、数が多すぎるとかえって漢字を捜すのがめんどうになるものです。そこで、さまざまな部首が統廃合を繰り返す中で、「烏(からす)」も「れっか」へと吸収合併されてしまったのです。この部首に所属する漢字の共通点を考えると、「れっか」以外に引き取り手がいなかったのでしょうねえ。
部首とは、基本的には意味分類の方法として誕生したのですが、実際の運用においては、「烏」のように、意味的には何ら関係のない部首に所属する漢字もたくさんあります。このあたり、タテマエと本音を平気で使い分ける、東洋人の面目躍如、といったところでしょうか。