当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0126
よく石碑などに、それを建てた日付の最後に「建之」と書かれていますが、これは何と読むのでしょうか?

A

最近、ちょっと忙しいので写真を撮ってきてお目にかけられないのが残念なのですが、たしかにこの「建之」は、私も見たことがあります。これを音読みした場合、ケンシと読むことが考えられますが、国語辞典を調べてもそんなことばはありません。そこで『大漢和辞典』を調べてみると、「建之」という熟語があるにはあるのですが、李さんだかだれだかのお名前だそうで、目的の熟語ではないようです。
自分が辞典を出している会社に勤めているから申し上げるわけではないのですが、辞典類がこの熟語の載せていないのには、ちゃんと理由があります。この「建之」、おそらくいわゆる熟語ではないのだと思われます。
ではなんなのかと申しますと、これは「漢文」だと思います。つまり「建」と「之」の間にレ点を打って、「之(これ)を建つ」と読むのだと思います。「之(これ)」が指しているのはもちろん、その石碑なりなんなりで、「何月何日にこれを建てました」という意味になるわけです。
明治維新以後、西洋文明が大量に流入してくる以前は、日本の知識人とは漢文を読み書きできる人のことでした。正式な文書が漢文で書かれることはしばしばでしたし、彼らの間では、手紙のやりとりなども漢文で行われていたのです。そこで、今でも、ちょっと古い石碑を探すと、漢文で書かれているものを見つけることができます。おそらく、何か石碑を建てるときには、地域の学のある人に文章を書いてもらっていたのでしょう。それは、そんなに特別なことではなかったのだろうと思います。
この「建之」の2文字には、漢文が今からは想像もつかないくらい身近で、日常生活に溶け込んでいた、そういう時代をしのばせてくれるものがありはしないでしょうか。

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