当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0119
「雪辱」の由来、語源などをお教えください。

A

この熟語は、漢文風に訓読すると「辱(はじ)を雪(すす)ぐ」となります。つまり、恥を洗い流すということで、四字熟語で言えば「名誉挽回」というのと同じ意味になります。
「辱」というのも難しい漢字ですが、それ以上に、なぜ「雪」が「すすぐ」という意味になるのか、という方がわかりにくいかもしれません。この字の成り立ちに関しては、例によって諸説があり、また、甲骨文字までさかのぼると現在の字形とは違う字形になってしまうということもあって、なかなか一致を見ないようです。ただ、この字が古くから「洗い清める」という意味で使われていたことは、間違いありません。そのイメージは、私たちが現在抱いている、「きよしこの夜」の雪のイメージと、そうかけ離れてはいないのではないでしょうか。
この熟語の一番有名な用例は、「会稽(かいけい)の辱を雪ぐ」でしょう。中国古代の春秋時代、越(えつ)国の王が、呉(ご)国に会稽山という所で敗れ、ひどい屈辱を味わいましたが、その後何年も苦労を重ねた上で、最後には呉国を滅ぼすに至った、という史実から生まれた故事成語です。
しかし、当の中国では、この熟語を「雪耻」(「耻」は「恥」の異体字)と書くことが多いようです。日本語で音読みすればセッチとなるわけで、セツジョクとは違うことばとなります。少なくとも日本語の場合、「辱」という漢字は、「屈辱」「汚辱」「侮辱」など、単なる「はじ」ではなくて、他者から受ける「はずかしめ」(あるいは他者へ与える「はずかしめ」)の意味で使われることが多いように思われます。「雪辱」という熟語の成立には、そのあたりが関係しているのかもしれません。

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