以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。
Q0083
中華料理屋さんではタマゴ料理には「蛋」という字がよく使われていますが、「卵」と「蛋」では、どう違うのですか?
A
「卵」という漢字の字源は、はっきりしているようではっきりしていないところがあります。右に掲げたのは篆文の字形ですが、篆文に基づいて字源を解説した『説文解字(せつもんかいじ)』では、「乳のないものは全て卵から生まれる。象形。」とだけしか記されていません。これでは、象形文字であることはわかるものの、何のタマゴを写したものかはわかりません。「タマゴといっても、いろいろあるじゃないか!」と文句を言いたくなります。
もう2000年近くもお墓に眠っている人に文句を言っても始まりません。現代の漢和辞典をいくつか調べて見ますと、カエルのタマゴだとか、いや魚だとか、虫だよとか、諸説があるようです。意外なのは、鳥だという説があまり見あたらないこと。たしかにこの字形、鳥のタマゴにはあまり似ていないようです。
しかし、『大漢和辞典』を調べますと、紀元前2世紀ごろに編纂されたといわれる『淮南子』(えなんじ)という本に、「巣覆して、卵毀(こぼ)たれ、鳳凰翔ばず」という用例があって、「卵」という漢字は古くから鳥の卵にも用いられていたことがわかります。
一方、「蛋」の方は、もともとは中国の南方に住んでいた異民族の名称で、のち、鳥のタマゴを表す漢字として用いられるようになったようです。もっとも、現在では、カエルなどの両生類のタマゴの意味でも用いられることがあるようですが、個人的には、カエルの卵の料理は、あんまり食べてみたくないですね。
「卵」と「蛋」とでは、音読みからしてランとタンで違うのですが、出自からすると、前者はもともと爬虫類・両生類・魚類系、後者はもともと鳥類系、ということになりそうです。